「事業を新しいステージにステップアップさせたいんだけど…」
「事業を後継者に託すことで会社を長く存続させたいなあ…」
「経営引継ぎのタイミングで事業整理を行って会社を立て直したいなあ…」
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日本経済の要は中小企業です!
しかし、いま中小企業経営者の高齢化が日本中で進んでいます。
2025年には中小企業の247万社で、経営者の年齢が70歳を超えると予測されています。
そして、恐ろしいことに、その半数は後継者未定と考えられています。
この状況を放置すれば、2025年までに22兆円のGDPと650万人の雇用が失われると考えられており、これは国の危機事態です。
中小企業が持つ優れた技術やノウハウも失われてしまいかねません。
そのような事態を防ぐための国の制度が、事業承継補助金です。
経営の世代交代をして、経営革新を実施する企業を応援してくれるので、攻めの事業継承・M&Aを行いやすくなります。
この記事では、事業承継補助金の制度概要、申請方法のステップを説明しています。
この記事を読めば、事業承継補助金を活用して、スムーズに経営を世代交代できます!
目次
1.事業承継補助金とは
事業承継補助金は、中小企業が事業承継や事業の新展開を試みる際の費用を補助するのが目的です。
地域に貢献している中小企業が、事業承継やM&Aなどで円滑に世代交代を行い、後継者が経営革新や事業転換などの新たなチャレンジを行うことを支援するための補助金です。
以前は「第二創業促進補助金」と呼ばれていましたが、平成29年度から現在の名称になりました。
2.事業承継補助金の対象者
単に、事業を誰かに継がせるからといって、自動的に補助金の対象者となるわけではありません。
承継補助金の対象となるには、下記の要件すべてにかなっている必要があります。
- 中小企業・小規模企業者、個人事業主、特定非営利 活動法人であること
- 地域経済に貢献している中小企業者等であること
- 承継者が現在経営を行っていない、または、事業を営んでいない場合、次のいずれかを満たす者であること
- 経営経験がある (経営者、役員としての経験3年以上)
- 同業種に関する知識などがある (実務経験6年以上)
- 創業・承継に関する研修等を受講したもの(補助事業期間内に受講する場合も含む)
少しわかりにくい要件が2の「地域経済に貢献している」です。
この要件について、さらに説明します。
(1)地域経済に貢献していると認められるには?
事業承継補助金を受けるには、商品提供・サービス・雇用の維持や創出によって、地域に貢献しているとみなされなければなりません。
例として、下記のようなことが求められます。
- 地域の雇用の維持、創出などにより地域経済に貢献している
- 所在する地域、または近隣地域からの仕入(域内仕入)が多い
- 地域の強み(技術、特産品、観光、スポーツ等)の活用に取り組んでいる
- 所在する地域、または近隣地域以外の地域への売上(域外販売)が多い
- 新事業等に挑戦し、地域経済に貢献するプロジェクトにおいて中心的な役割を担っている。
- 上記によらず、その他、当該企業の成長が地域経済に波及効果をもたらし、地域経済の活性化につながる取組を行っている。
3.事業承継補助金の対象事業
事業承継をきっかけに、下記のような経営革新に取り組む際に補助金の対象となります。
- 新商品の開発、または生産
- 新役務(サービス)の開発、または提供
- 商品の新たな生産、または販売の方式の導入
- 役務の新たな提供の方式の導入
- 上記以外の、その他の新たな事業活動で販路拡大や新市場開拓、生産性向上など、事業の活性化につながる取り組み
経営革新ですから、他社で一般的ではない新サービスや新生産方式が求められます。
といっても、あくまでも「一般的ではない」ということが問われていますから、誰もまだ手がけていない前人未踏の新規事業である必要はありません。
あくまで、一般的でなければ構いません。
少なくとも、同一商圏内で類似した商品の販売やサービスがない事業が、革新性があるとみなされる場合が多いです。
自分の会社が行なおうとしている事業が、上記の要件に当てはまるかどうか確認するためには、中小企業庁が認定した「認定経営革新等支援機関」に相談する必要があります。
認定経営革新等支援機関については、後述の申請ステップのなかで詳しく説明します。
4.事業承継補助金の対象となる経費
事業承継補助金は、対象となる経費の幅広さが魅力です。
事業承継補助金の対象となる費用は以下です。
- 事業に必要な官公庁への申請書類作成等にかかる経費
- 店舗等の借入費
- 原材料費
- 設備費
- 知的財産権等の関連経費
- 広報費
- 会場借料費
- 外注費
- 謝金
- 旅費
- マーケティング調査費
- 委託費
また、事業承継の際に事業所の廃止、既存事業の廃業・集約を伴う場合は、下記の経費も事業承継補助金の対象です。
- 廃業登記費
- 在庫処分費
- 解体費・処分費
- 原状回復費
5.事業承継補助金の公募期間
現在、平成30年度二次補正予算で承認された事業承継補助金の公募期間が下記のように始まっています。
申請受付期間:2019年4月12日(金)~ 2019年5月31日(金)19:00
そして、2019年12月31日までの間に、事業承継を完了させなければなりません。
6.事業承継補助金の2種類の類型
事業承継補助金は、事業承継の要件によって 【I型】後継者承継支援型と【Ⅱ型】事業再編・事業統合支援型の2つの申請類型から選択できます。
それぞれ補助率の考え方や上限額が異なりますので説明していきます。
(1)Ⅰ型:後継者承継支援型(経営者交代タイプ)とは
Ⅰ型は、経営者交代による事業承継のあとに経営革新を行う方を支援するタイプです。
後継者は、親族でも、外部から招く人材でも構いません。
会社であれば、先代経営者が退任して、後継者が代表に就任することで事業が承継されたことになります。
個人事業者であれば、先代経営者が廃業したり、後継者が開業するなどにより、後継者に事業が承継されたことになります。
#1.Ⅰ型の補助率と補助金額
Ⅰ型には、下記の補助率、補助下限金額、補助上限金額が適用されます。
事業転換 | 補助率 | 補助下限金額 | 補助上限金額 | |
個人事業主、小規模事業者 | 無 | 3分の2 | 100万円 | 200万円 |
有 | 500万円 | |||
その他の中小企業 | 無 | 2分の1 | 150万円 | |
有 | 375万円 |
上の表で、小規模事業者とは、従業員20人以下(商業・サービス業は5人以下)の事業者のことです。
また、事業転換とは、解体、処分費等が発生する、事業所や既存事業の廃止を伴うケースです。
(2)Ⅱ型:事業再編・事業統合支援型とは
Ⅱ型は、会社合併、会社分割、事業譲渡、株式移転など、いわゆるM&Aなどにより事業を再編、統合したあとに経営革新を行う方を支援するタイプです。
後継者がいないという理由で、経営者の引退と同時に会社が廃業してしまうケースも少なくありません。
そのため外部に後継者を求めて、M&Aを行う会社が増えています。
しかし、実際は複数の企業が、お互いの利益のために協力するために行われます。
業務提携、資本提携、分割、買収といった様々な形態を使い分けて、複数の会社がお互いの強みを伸ばし、弱みをカバーしあいます。
事業承継補助金は、M&Aによる事業承継に関する費用も補助対象に含めていますので、M&A仲介業者のような専門家に依頼する場合でも、中小企業の費用負担を軽減してくれます。
#1.Ⅱ型の補助率と補助金額
Ⅱ型には、下記の補助率、補助下限金額、補助上限金額が適用されます。
事業転換 | 補助率 | 補助下限金額 | 補助上限金額 | |
個人事業主、小規模事業者 | 無 | 3分の2 | 100万円 | 600万円 |
有 | 1200万円 | |||
その他の中小企業 | 無 | 2分の1 | 450万円 | |
有 | 900万円 |
上の表で、小規模事業者とは、従業員20人以下(商業・サービス業は5人以下)の事業者のことです。
また、事業転換とは、解体、処分費等が発生する、事業所や既存事業の廃止を伴うケースです。
7.事業承継補助金の申請ステップ
補助金すべてにいえることですが、事業承継補助金にも厳正な審査があります。
補助対象が事業の承継に伴う経営革新ですので、長期的なビジョンを視野に入れたプランが審査されます。
それでいて、事業の承継手続きは、補助事業期間中に完了させる必要がありますので、目の前の作業フローもこなしていく必要もあります。
長期のビジョンと短期の作業フローを考慮に入れた計画をしっかり練っておくために、下記の申請ステップをおさえておきましょう。
#1.認定経営革新等支援機関への相談
事業承継補助金を申請するためには、まず認定経営革新等支援機関に相談します。
そして補助金を受ける要件にあてはまっていることを証明する確認書を、認定経営革新等支援機関から受け取る必要があります。
認定経営革新等支援機関は、中小企業に対して専門性の高い支援を行うために公式に認定された機関で、経営革新といった新たな取組みについて相談にのってくれます。
商工会議所、金融機関、税理士、会計士、弁護士など、一定レベル以上の実務経験を持つ団体や個人に対して、中小企業庁が認定を行っています。
認定経営革新等支援機関は、それぞれ得意とする分野が異なっているため、求める支援の内容に応じて支援機関を選びましょう。
どこを選べばいいかわからない場合は、地元の経済産業局に相談することもできます。
こちらに各地域の支援機関一覧(PDF)が載せられています。
#2.事務局への交付申請
事業承継補助金の認定支援機関で確認を取った後は、申請要件を満たすことを証明する添付書類を添付して交付申請を行います。
原則として、申請作業はすべて電子申請で行います。
平成30年度二次補正予算の事業承継補助金は、こちらから申請マイページを作成し、2019年5月31日(金)19:00までに申請を完了させる必要があります。
#3.補助事業の実行
事業承継補助金事務局から採択結果の通知が送られてきます。
中小企業庁や事務局のホームページにおいて交付決定者の公表を行うほか、申請マイページを通じて採否結果が通知されます。
交付決定されたら補助事業を開始します。
平成30年度二次補正予算の事業承継補助金の補助事業期間は、交付決定日から2019年12月31日(火)までです。
必ず交付決定を受けた後に補助事業を開始してください。
交付決定前に契約・導入され発生した経費は補助対象となりません。
#4.実績報告
補助事業を完了した事業者は、事業完了後30日以内に、当該事業についての使用経費の状況がわかる実績報告書を提出します。
#5.補助金受取
事務局が、実施した事業内容の検査と経費内容の確認を行い、補助金の額を確定します。
確定した額に応じて、補助金が支払われます。
通常は、実績報告書の提出後2~3カ月程度で交付されます。
平成30年度二次補正予算の事業承継補助金の事業期間は、2019年12月31日(火)までですので、遅くとも2020年3月末までには補助金が実際に交付されます。
交付までの間に運転資金を必要とする場合は、金融機関でつなぎ融資の相談を行う必要があります。
#6.交付後の報告義務
補助金を受け取ってすべて終了ではありません。
補助事業完了から5 年間は、対象の事業についての事業化状況と収益状況を報告しなければなりません。
まとめ
事業承継補助金は高い採択率が評判を呼び、人気の補助金になっています。
平成30年度のⅠ型後継者承継支援型の事業承継補助金は、7割以上の会社が補助金の交付対象として採択されました。
しかし、5年間という長期間の報告義務があることからも分かるように、事業承継補助金を十分に活用するには、長期的な視線を持った経営プランを事前に準備する必要もあります。
目の前の審査をクリアすることだけでなく、長期的な視野を持って会社の足腰を強くするためにも、入念な申請準備を実施しましょう。